消費者は自社と競合他社とを比べ、頭の中で相対的な位置づけをしています。
この消費者の頭の中での自社の位置付けをポジショニングと言い、消費者に「どう思ってもらうか?」ということを考えることになります。
このポジショニングでは、まず、「J.選ばれる理由を考えよう」で説明した「ブランド・エクイティ」の考え方を利用し、「自社が販売している商品カテゴリー」や必要に応じて付随する「製品以外の購入要因(工事の質、専門知識など)」を考えます。
例えば、メーカーの立場でエアコンというカテゴリーを考えるならば、「エアコンといえば?」というように、どういったイメージを持ち、何が購入決定に一番関わっている要因なのかを考えるということです。
図1のように色々な要因が挙げられますが、仮に図中ピンクの「省エネ」というイメージが購入要因として一番強いとします。
図1:エアコン(カテゴリー)の購入要因(イメージ)
この「省エネ」という裏には「電気代を気にせず、快適に過ごしたい」「電気代を節約して教育費に回せる安心感」などが挙げられ、この想いがベネフィットとなります。
多数の消費者が「エアコンといえば省エネ」というイメージを持ち、それが購入を決定する一番強い要因ならば「省エネが販売の主軸」となり、自社のエアコンが「一番省エネに強いエアコン」ならば「売れる」ということです。
図2はこの「省エネ」を主軸とした場合のポジショニングを表したものです。
ここで注意が必要なのが「省エネに強いメーカー」という消費者のイメージがA社とE社に二分されている場合です。
通常であれば、A社の方がほんの少しイメージ的に優っているため、A社の方が売れると思われがちですが、実際には支払う価格との比較も考慮する必要があります。
E社に比べて、A社の省エネ性が価格差を埋めるほど優れているか?ということが重要になります。
結果として、図2のような価格差があればA社のイニシャルコストを回収できないため、E社のエアコンが売れるでしょう。
現実には、こういったケースは多くあるため、機能と価格差も考慮してください。
図2:エアコンのポジショニング(例)
※省エネ性が高ければ高いほどよく、そのうえで価格は安ければやすいほど選ばれやすい
※この状態なら「メーカーE」が選ばれやすい
また、この主軸(この場合は「省エネ」)ですが、これはあくまで消費者が抱いているイメージの為、不変的なものではなく、激しい環境変化で動いたり、相当なパワーは要りますが、施策による主軸の利用で意図的に動かすことが可能になります。
まず、激しい環境変化ですが、わかりやすい例でいえば、2020年は新型感染症の流行により、今まで主軸だった「省エネ」よりも、図1の緑部分の「空気清浄機能」や「換気機能」が注目されています。
その為、「エアコンと言えば空気清浄機能、換気機能」という購入要因(イメージ)により、「空調を効かしながらも、キレイな空気で生活できる安心感」という想いを抱く消費者が増え、主軸が動かされたと言えます。
こうなれば、図3のように自社のエアコンに「省エネ」のイメージがなくとも、「空気清浄」のイメージを持ってもらえれば売れるようになります。
要は消費者が抱くカテゴリーのイメージを明確にし、そのイメージ(主軸)と同じイメージを自社の製品に持ってもらえば「売れる」ということです。
言い換えれば、消費者が抱くカテゴリーのイメージ(主軸)のより近い場所にポジションを取るということであり、それがポジショニングになります。
このように激しい環境変化はカテゴリーに抱くイメージを変えるため、「A.環境について考えよう」にも記載したように、環境分析を定期的に行うことが大切です。
図3:自社エアコンの購入要因(例)
次に施策による主軸(カテゴリーの一番の購入要因:イメージ)の利用ですが、これは正確に言えば「主軸は競合に追従しながらも、次の第二軸を打ち出す」というものです。
「省エネ」という主軸が「空清」に移り、競合A社が「空気清浄機能」でトップのイメージを取っている場合、設定したターゲットの生活シチュエーションを考慮します。
例えば、「在宅勤務になり、エアコン使用時間が長い家庭」の場合、「省エネ性」も主軸から外れ、二番目の機能になったとはいえ、無視できる機能ではありません。
その場合、「空気清浄機能付きエアコンの中で、一番の省エネエアコンです」というように、主軸の空気清浄機能は競合に追従しながらも、「省エネNo.1(事実)」という訴求が可能になります。
これらの例のように、消費者の頭の中にあるカテゴリーの購入要因(イメージ)を主軸とし、その主軸の近くのポジションを取ることがポジショニングです。
ここではメーカーのエアコンという製品を例にポジショニングを説明しましたが、小売業の場合、「製品以外の購入要因(自店でエアコンを購入してもらえる要因)」として図4のように製品以外の提供サービス等で同じように考えてください。
図4:製品以外の購入要因(例)
消費者が商品を購入する場合、製品以外の要因が購入を決定することもあります。
例えば、エアコンの場合、機能よりも工事の質や季節性といった製品以外の要因が購入決定に関わることも多く、真夏に暑い日が続けば「製品はどれでもいいから早く取り付けて欲しい」というケースが該当します。
この場合は「いつ工事ができるか?(早い工事日)」ということが消費者にとって一番強い購入要因になるため、自社の工事能力に余裕があれば大きなセールスポイントとなり、商品はどれでもよくなります。
消費者の「工事日が早い企業」というイメージの中で、自社が一番この主軸に近ければ、放っておいても注文が入るはずです。
もし、多くの消費者が自社の存在を知らなければ、認知度向上策として「工事最短日」を訴求したポスティング等を実施することもできます。
いずれにせよ、
①消費者の「製品以外の購入要因」
②環境分析
③競合(工事最短日)
———を考えることが大切です。
今夏、猛暑が続くということは、消費者と電気屋さん(自社、競合)にとって、②の環境分析で見逃せない項目(1-A.環境について考えよう)になります。
また、③競合の工事最短日などの調査も、電気屋さんにとっては欠かせない状況把握です(1-D.競争相手について考えよう)。
図5は「工事日について」のポジショニングを表したものですが、図3同様、工事日と価格の両方を考えることが大切です。
図5:工事日のポジショニング
※工事日が早ければ早いほどよく、そのうえで価格は安ければやすいほど選ばれやすい
※この状態なら「自社」が選ばれやすい
①消費者は自社と競合他社とを比べ、頭の中で相対的な位置付けをしており、この消費者の頭の中での自社の位置付けをポジショニングと言います。
②ポジショニングでは、まず、「J.選ばれる理由を考えよう」で説明した「ブランドの購入要因」の考え方に基づき、自社が販売しているカテゴリーのブランド購入要因を考えます。
➂消費者が抱くカテゴリーのイメージ(主軸)のより近い場所にポジションを取れれば「売れる」ということであり、その場所を取るのがポジショニングになります。
④施策による主軸(カテゴリーの購入要因:イメージ)の利用とは、「主軸は競合に追随しながらも、次の第二軸を打ち出す」というものになります。
⑤小売業の場合は提供サービス等、商品以外の購入要因を抽出して、同様に考えてください。 |